第4話
>>良
頭上で目覚まし時計の音が鳴り響く。初めはボンヤリとしか感じないが、だんだんと耳を刺すような音である事が分かってくる。まだ頭はスッキリしていない。疲れがまだ取れていないからか、体中がだるい。昨日は色んな事があったからな。このまま寝てしまおうかと考えたが、続けてきた日課なのでさほど辛くも無い。比較的自然に手を伸ばす事が出来た。俺はその力の無い右腕で、けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止める。
「…ふぅ…。」
一気に体を起こし、そして出た第一声が、これだ。こんなにだるい朝は久し振りだ。さすがの俺も、しばらくそのままでいる。
「くそ…あの女、絶対殴り過ぎだ…。」
痣こそ出来てはいないが、体中の節々が痛んでいた。俺は昨日の戦闘が原因だと、信じて疑わない。まぁ、激しく動きすぎた俺にも非はあったのかも知れないが。
「よいしょ…と。」
ベッドから抜け出しながら、時計を見る。5時半。今日はちょっと遅くなったな、と頭の片隅で考えながら、とりあえず運動着に着替える。早朝のランニングは俺の日課だ。朝の空気の中で汗を流してサッパリする、これがまた最高に気持ちいい。これを味わうと、人によっては病みつきになる可能性もあると思う。尤も、こんな時間に起きる事は常人には非常に辛いが。
「えぇ〜っと…リーフ、リーフ…。」
リーフが無い。どこへいった?無くても問題は無いが、やっぱりあった方が便利だ。俺はまだボンヤリする頭で、昨日の記憶を探る。確か机の上に置いたはずだが…。
「あった。」
崩れた教科書の下敷きになっていた。道理で見つからないはずだ。俺は教科書を丁寧にどけながら、少し大きめの腕時計のような物を手にした。
「しかし…いつみても絶妙な大きさだな。」
俺の左手首に取り付けられたその物体は、縦約40mm、横約80mm、厚さ約8mm、それに腕時計のようなベルトが取り付けられている。この不思議な機械の正式名称は装着型獣気通信機、俗称『リーフ』という。由来は薄くて軽く、葉っぱみたいだからという理由と、現在の最大手電化製品メーカー葉隠財閥の先駆けである葉隠電機が元々製造していたからなのだという。
「名前の由来っていうのは面白いな。」
面白いのは、このリーフ本体だけでは何も出来ない所。デスクトップ型のパソコンで言えば、モニターのようなものだ。ここに『ピット』と呼ばれる、情報が組み込まれたスティックを差し込むことによって、初めてプログラムが作動する。
リーフの1番の売りは、ピットや装備品によるカスタマイズ性の高さと、非常に高いユーティリティ性である。腕時計として見るには大きすぎるが、腕時計だけでなく、これが何にでもなれるって言うから、驚きだ。文章のプログラムが組み込まれたピットを差し込めば、いつでもリーフで本を読めるし、ゲームのプログラムが組み込まれたピットを差し込めば、どこでもゲームがプレイ出来る。以前見た雑誌では、赤外線センサーを取り付け、電化製品をリーフ1つで動かせるようにした主婦が掲載されていた。便利かもしれないが、何も電子レンジまでリモコン操作に改造しなくても良いと思った。
「落ち着けよ。電子レンジというものは、傍まで歩いて食べ物を中に入れて、そこでスイッチを入れて使うものだろ。あれはおかしいな。」
尤もこのリーフの本来の使い道は、B−1の時に参加者に指令を与えたり、情報を与えたり、自分の成績を残しておいたりするためのものだったのだが…。
「いつの間にやら、立派な電化製品になったものだな。」
ま、俺もその電化製品利用者の1人だけど。
「え〜っと…靴ベラ、靴ベラ…。」
何だかんだ言っているうちに、俺は準備を整え終えた。靴をしっかりと履き、俺は携帯電話の時計を見た。リーフとケータイは別だ。俺はリーフに時計機能を入れていない。ケータイがあるからだ。
「6時弱…か。」
いつもなら2時間近く走っているのだが、それだと今日は学校に間に合いそうに無い。
「うし、今日は心獣の練習でもするか。」
昨日の件で、少し練習不足なのが分かった。基礎トレーニングが多過ぎたようだ。久し振りに実戦トレーニングを行うのも、悪くは無い。今朝の日程を決めたところで、俺は肌寒い外へと駆け出していった。 |