>>シンゴ
「くそ!水鏡はリタイヤか!」
「仕方ない、一気に突破するぞ!」
「分かってらぁ!」
足に渾身の力を込めながら、俺は裏門へと駆け出した。その間中、俺はここまで来る間の出来事を思い出していた。
「おい、良。」
「何だ?」
山道を歩きながら、俺は良に話しかけた。
「そういや俺たち、どうやって門を飛び越えるんだ?」
「え、飛び越える気なの?!」
それに一番驚いたのは水鏡だった。
「当たり前だろ。水鏡、お前は裏門を壊せるのか?」
「いや、出来ないけど…。」
俺の問いかけに、水鏡は黙り込む。
「だろ?て事は誰かが裏門をどうにかしなきゃ、俺たちは中へ入れないな。」
「俺は無理だ。」
誰も聞いていないのに、良は独り言のように答えた。
「俺の心獣じゃ、拳を複雑骨折して終了だ。」
「良の心獣でも、そこが限界か…。」
人間との戦闘には恐ろしいほど威力を発揮する良でも、やっぱ文明の利器には勝てないらしい。
「それじゃ、やっぱり諦めた方が――」
「水鏡、ここまで綿密な計画練ったんだぞ?今更引き返せるかよ。」
それにしてもさっきから、水鏡は何嫌がっているんだ?男なら一直線だろ。
「それに、裏門をどうするかを今考えている時点で、『綿密な計画』じゃない気がするし。」
「水鏡うるさい。」
良は静かに怒った。水鏡は他にも何か言いたそうだったが、結局口をつぐんでしまった。
「なぁ、シンゴ。お前の心獣じゃ無理なのか?」
いきなり良から、俺に話を振られた。俺は予想だにしない展開に焦った。
「え、俺?!」
「あぁ。」
「無理だって、絶対!」
自分で言うのも格好悪いが、それは不可能だ、絶対に。
「でも、今一番有効な手段だ。」
「いや、それはそうかも知れねぇけどな…落ち着いて考えてもみろよ。どう考えたって、裏門は鉄で出来てるだろ?それを破壊する程の力があったとしても、それに耐えられる程の棒があるかどうか――」
「シンゴ。」
俺の説明の途中にも関わらず、良は途中で俺に喋りかけてきた。
「何も裏門を斬れと言っている訳じゃない。」
違うのか?
「あの爆発で裏門を溶かせたら、それで十分だ。」
良の恐ろしい計画に、俺は思わず身を引いた。あまりの突飛さに、水鏡も驚いていた。
「…良君、すごい事言うね。」
「そうだろ、水鏡?」
「確かにそれが一番良いだろうけど、今までうまくいった試しが無いんだよ?」
そうだ。確かに俺は、俺の心獣はこの中で一番破壊力がある、と自負している。でもそれが原因か、それとも俺が不器用からか、そういうちょっとした工夫すら出来ないのが欠点だ。頑張って練習した事もあるけれど、一度たりとも成功した試しが無い。だから俺はさっきから否定しているんだ、『俺には無理』と。
「…。お前はいつまで、自分の限界に縛られたままでいる気だ?」
「は?」
すると突然、良は意味のよく分からない事を言い出した。
「よく聞け。今回の作戦において、門の越え方は非常に重要で、且つ絶対成功させなければならない難関だ。例え無理だとしても、その無理を超えなければならない事ぐらい、お前は分かっているだろ?」
黙る俺に良は、言葉を続けた。
「ホラ、こんな所に鉄パイプがある。」
良は足元から、それは見事な鉄パイプを拾った。誰が落としたのかは分からないが、かなり使いやすい長さだった。
「良君、何か変だと思わないの(汗)?何か仕組まれているのでは?とかさ…。」
「これを使え、シンゴ。」
水鏡の言葉を無視して、良は俺にその鉄パイプを手にするよう言ってきた。
「いや、でも…。」
無理強いと言っても過言では無い良の言葉に、俺は否応無く顔がひきつる。
「もう俺たちには、お前しか頼みの綱が無い。」
「良…。」
そうか、俺しか頼みの綱が無いのか。それなら頑張らない訳にはいかないな。それにこれで上手くいけば、かなり俺の好感度が上がるだろうな。
「頼んだぞ、シンゴ。」
「おう!」
俺と良は固い握手を交わした。やってやる。俺は今日、裏門を破壊する!そして彼女をGETしてやる!
そして今、俺は良と走っている。俺のこの右手には、先程良から渡された友情の証――銀に光る鉄パイプが握られている。
「いくぜぇ、良ぉ!!」
「思いっきり破壊しろ!」
良の声を聞いて、俺は覚悟を決めた。もうためらわねぇ。俺の心獣で裏門を破壊する。
「うおおぉぉ!!」
鉄パイプを両手で力一杯握り締め、大きく振りかぶった。
「『ビター・スイート』ぉ!!!」
振り下ろされた鉄パイプから、熱気をともなった真っ赤な爆炎が、派手な音をたてて燃え盛る。これが俺の心獣、その名も『ビター・スイート』。俺が手にした細長い対象物から、爆風をあげる事が出来る。普段はこの爆風を推進力にして、俺に突っかかってきた輩を沈めてきたのだが、今回の敵は鉄の門、敵うはずが無い。だから良は俺を最後の望みとして、この爆炎による溶接を提案してきたのだ。誰も計った事は無いが、爆風の温度は数百度を軽く超える。あの良が俺を頼りにしているんだ。失敗なんか出来ない、いや、絶対成功させてやる!!
「溶けろぉ!!」
俺の叫び声と重なるように、耳が痛くなりそうな金属音が周りに響き、それと同時に、俺の手から鉄パイプが消えた。
「……。」
瞬間か、それとも長い空白か?
「……。」
ガシャンと鉄パイプの落ちる音が、俺たちの背後で聞こえた。後ろを見る。裏門の硬さに負けた鉄パイプは無残にも、真ん中で二つに折れていた。
「良…。」
「…。」
失敗!!!
「どうするよ…?」
「…。」
「…。」
しばらく気まずい無言が続いたが、良の一言がそれを全て吹き飛ばした。
「背に腹は変えられん!」
「だな!」
俺は裏門のふもとで準備していた良の体を蹴って、裏門を飛び越えた。空中を舞う時、俺は鳥になった。
「ぬおりゃぁぁー!!」
大げさな音を立てながら、俺は遂に全日本中の男子校の聖地、女子高へと侵入した。俺の計画は失敗したが、それでも俺たちの作戦は終わっていない。こうして俺は、あっさりと女学院の校内へ侵入する事に成功したのだ。
「痛ぇ…。」
「大丈夫か?」
「おぅよ。それより良、早く入れ。手を貸すぞ。」
背中の痛みを堪えながら、俺は門へと折り返す。くっそ…。着地に失敗したな。
「ホラよ、早くしろよ。」
俺は良に手を差し出す。なのに良は、身動き一つしない。
「?どうした、良?憧れの女子高はもう目の前だ!」
何も言わず良は回れ右をして、そのまま走り出した。
「…て、ぅおい?どうした、良?早くしなきゃ、誰か来るぞ!」
「誰だ?!」
その瞬間、背後から謎の男の叫び声が聞こえてきた。どうやら声は俺に向けられているらしい。恐る恐る、俺は後ろを振り返ってみた。
「…あ。」
警備員が3人…俺を見ている。俺、見られてる。
「はわー!!!」
えげつない形相をして駆け寄ってくる警備員を振り払いながら、そのまま俺は敷地内を爆走した。
「待て!」
「捕まえろ!」
「く、くそぉ!良のやつ、何で言ってくれねーんだよぉ!!」
大声で喚くこと数十分後、たくさんの警備員に追われながらも俺は、命からがら逃走に成功するのであった。 |