>>良
「よし、これで完成だ!!」
「終わったぁ〜。」
放送室中に響き渡るかと思うくらいの大音量で、先輩2人が叫んだ。
「ついに出来たぞ…映像を無駄なく画面に送り、ノイズを極限にまで抑える事の出来る装置を兼ね備え、さらにはアフターケアに最適の配線を成した、ほぼ理論に極限にまで近付いた最高のミキサーだ!!」
いや、シンディ、何勝手に改造しているんだ(汗)?
「やったね、シンディ〜。僕も久し振りに感動だよぉ〜。」
そりゃあんた、寝てばっかりだからだろ(汗)。
「水鏡、今何時だ?」
「ちょうどお昼休みに入ったところだよ。僕らはもう用意を済ませたから、後は先輩たちを待つだけだったんだ。」
「分かった。よし、全員集合!」
シンディのかけ声で、俺たち5人は円陣を組んだ。
「良いか、時は満ちた。これから私たちは前人未到(或いは前代未聞)の挑戦に試みようとしている。覚悟は決めたか?俺は出来ている。」
「準備オーケーだよぉ〜。」
意外と北岡先輩はノリが良かった。俺はシンゴと水鏡を見た。水鏡の方は少々心配があったが、邪魔になるほどでは無いと判断した。
「シンディ、俺たち3人は大丈夫だ。命令してくれ。」
「良、分かっている。俺が命令した瞬間から、全員自由行動だ。どうナンパしようが、個人の自由だ。ただ、捕まるな。分かっているな?」
俺たちは各自返事をした。その口調から、全員緊張しているのが読み取れた。
いよいよ、待ちに待った作戦が実行される。
苦節2ヶ月弱、俺たちは頑張ってきた。時に激しく、時に緩やかに、頑張ってきた。作戦が中止になりそうになった時もあった。もうすぐで警察に突き出されそうになった時もあった。それでも諦めずに挑戦し続けた結果、俺たちはようやく、ここまで辿りついた。感極まった俺は、こう呟いた。
「世の中にはこんなことわざがある。『意志あるところに道は通ず』。確固たる信念さえあれば、道はおのずと開かれる、という事だ。今日、俺たちがそれを実現した。」
「良君、別人みたいに格好良いよ!」
何故か水鏡が感動した。皆に言ったのに。
「よし!それでは今から自由行動――!」
その時、ドアがノックされた。そのナイスタイミングぶりに、シンディはむせた。
「な、何なのだ、一体。せっかくの私の決めゼリフを――」
ぶつくさ文句を言いながら、シンディは鍵を開け、ドアを少しだけ開けた。
「はい、何ですか?」
「ちょっと忘れ物したから…入っても良いかしら?」
「あぁ、良いですよ。」
そう言ってシンディは、女学院生を1人中に入れた。外の光が逆光になってよく見えなかったが、ロングヘアーの少女という事だけ分かった。俺たち3人は顔を見られた事もあり、とっさに顔を反対に向けた。気配でしか分からないが、少女はウロウロと部屋の中を歩き回った後、机の上に置かれていた本を手にし、
「あったわ。ここに置いた覚えは無いけれど。」
と呟いた。
「(あ、さっき僕が読んでいた本だ。)」
水鏡も呟いた。
「どうもありがとう。おかげで見つかったわ。今日が返却日なのよ。」
「いえいえ、どういたしまして。」
そのまま少女はドアの方へ歩いていった。そのまま出て行くかと思った瞬間、
「…あ、そうそう。」
少女はこちらを振り返った。
「はい、何ですか?」
シンディは意味が分からない、といった声で返事を返した。『このまま帰ってくれ』と、誰もが思っていた瞬間だった。
「あなたたち…電気屋じゃ無いわね。」
「っ!?」
声は出ていなかったが、明らかにシンディは動揺した。のんびり屋の北岡先輩ですら、少しだけ肩をびくつかせた程だった。それほど少女の声は鋭く、直線的だった。
「…そ、そんなはずはありませんよ。現にこうやって修理をしています。」
「確かに修理はしているけれど、あなたたちは電気屋じゃないわ。」
「私たちは電気屋です!…ホラ!ちゃんと服に『山田電気店』って書いているじゃないですか!」
シンディは必死になって、俺たちの正体を隠そうとした。ここで負けていては屈辱だ!確固たる信念を持つんだ!『俺たちは電気屋』という信念を!
「…余計おかしいわ。女学院はいつも『葉隠グループ』に任してあるのよ?」
『葉隠グループ』…それは日本最大の家電メーカーで、ピット販売も手がけている日本の最大手企業だ。
「き、今日は我々が行く事になっているんですよ!ほら、壊れたのは昨日ですし、修理くらいなら我々が出来るという事で、特例で来ました。」
咄嗟にシンディは、果てしなく最良の返事を返した。俺はシンディの賢さに感心した。しかし『この状況で最良の返事』という意味であって、現実的には言い負かすほどのパワーを持った物では無かった。
「それも無理ね。そういう話は必ず相手に伝えるのが、葉隠グループのモットーなのよ?それに、私の事を知らないようじゃ、どのみちこの業界の人じゃ無いこと位、すぐ分かるわ。」
「……ん?」
シンディはそこで思考を止めた。後ろを向いていても、考えるのを止めた事が分かった。
「そこにいるのは、以前校門前に顔を晒されていた3バカね?」
俺たち3人は、体を振るわせた。水鏡に至っては、小さな悲鳴を上げた。俺が代表して振り返ると、そこには威風堂々と少女が立っていた。
「私はあなたたちおバカさんの行動が楽しいけれど…あくまでもこの学校の生徒だから。」
その声を聞き忘れるはずが無かった。その少女は、紛れも無く、あの夕陽の時の少女だった。
「私の名前は葉隠命(はがくれ みこと)。久し振りね、良。」
この時俺は、その少女の発する心獣の強さだけで無く、この計画も失敗に終わった事も認めなくてはならない状況だった。まさか、たった1人の少女に計画を全て見抜かれるとは、俺も含め、誰も想像していなかったに違いない。実行リーダーを務めるシンディも、ショックが大きいに違いない。ただ、少なくとも俺だけだろうが、こうやって計画を見抜かれた事に関して、一切の悔いを感じなかった事を覚えている。
「まぁ、ここまで潜入出来た事に関しては、賞賛に値するわね。おめでと。」
そう言って少女は少しだけ、髪をかきあげた。サラサラと流れるように揺れる黒のロングヘアーは、正直な所、きれいだった。葉隠グループの令嬢となると、さぞかし身分が上に違いない。髪の手入れもしっかりしているに違いない。話を聞くに、どうやら社長令嬢という事も間違いない。ただ、葉隠グループはたくさんの会社が合わさっているため、どこの社長なのかは分からなかったが。
「次は何をするのか、楽しみにしているわ。」
俺を見つめるその目は、挑発しているようでもあり、俺たちの行動を心から楽しみにしているようでもあった。だから、俺は叫んだ。
「あ!UFO!!」
「え、嘘?!」
少女が振り向いたその瞬間、
「逃げろぉぉぉ!!」
俺の叫び声と同時に、俺たち5人はあっという間に部屋から抜け出し、そして一目散に逃げていった。
「…騙されちゃった(汗)。」
小さくではあったが、少女のそんな声が聞こえた気がした。
こーゆー緊迫した状況って、どうしてあんなベタな騙しが効くんだろうな?
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