>>水鏡
「くそ!こっちもダメだ!」
シンゴ君は、思いっきりコンクリートの壁を蹴り飛ばした。
「痛たた…。」
そして自分の足を抱えた。
「どうしよぉ〜。全然上に上がれないよぉ〜。」
たまらず僕は叫んだ。さっきから地上には近付いているのに、どうしても地上へ上がれないのだ。
「泣くな、水鏡!」
「泣いてないけど。」
「間違えた。泣き言を言うな!」
通常なら有り得ない間違いだけど、スターライト高校に通う僕らは、そんな奇跡を起こせる素質を持っている。
「とにかく、さっき見つけた道も行ってみようよ。」
「そうだな。」
僕とシンゴ君は来た道を引き返すことにした。




>>
「ねぇ、由香。」
ちょうどお昼の休憩の時間が重なった由香に、あたしは声を掛けた。
「どうしたの?」
「何だか今日、騒がしくない?」
「そうね。まだ大会は無いのに、必死だもんね。」
そう言って彼女は運動場を見渡した。
「あー、そういう意味じゃなくって。」
「違うの?」
「そう。何だか、騒がしくない?」
「騒がしい…?」
よく分からない顔つきで、由香は耳を澄ました。
「あー…何かが騒がしいわね。」
「でしょ?!」
「何が騒がしいのかは分からないけれど、でも、何だか騒がしいわね。」
「何だと思う?」
「さぁ、私には何とも…。」
由香は困った顔をした。あたしは思い切って、思っていた事を言った。
「口にするのは難しいんだけど…誰かが『ぬきおー!!』て叫んでる感じしない?」
「そうよ、渓、それよ!『ぬきおー!!』て感じよ!」
「『ぬきおー!!』よね?!」
「『ぬきおー!!』よ!」
傍から見れば怪しさ満点の会話をしながら、あたしたちはしばらくの間、はしゃぎまわった。




>>シンゴ
何度木刀を喰らわせても、壁を形作るコンクリートはパラパラと粉を舞うだけだった。
「ちょっと、シンゴ君、少し休んだ方がいいよ。」
「何言ってんだ、水鏡!目の前は男子禁制の花園なんだぞ!?」
「そりゃ、そうだけど…。」
「あともう少しだ!あと少しで破壊できるはずだ!」
俺は木刀を握り締め、そして頭上高く構えた。
「ぬきおー!!」
轟音と共に、高速の木刀と爆炎が、壁に突き刺さる。
「どうだ!?」
だが、それでもうまくいかねぇ。壁は何の反応すら見せなかった。
「シンゴ君、叫び声もおかしくなってるよ…。」
水鏡の声を聞き流しながら、俺は焦っていた。おかしい。こんなに手ごたえが無いのはおかしすぎる。きっと力が足りねぇんだ。
「うっしゃぁ!もう一度いくぞ!」
「えぇ!もう休んだほうが―」
「ぬきおー!!」
土管中が響く程の音の中、俺はいつまでも壁と闘い続けた。




>>
おかしい。
かれこれ数時間歩いているが、どこかへたどり着く雰囲気が無い。いや、それどころか、さっきから同じ景色ばっかりだ。尤も土管の内壁を景色と言うのも変な話だが、やはりこの距離はおかしすぎる。長すぎる。もしやこの土管は、何か特別な仕掛けでもあるのだろうか?例えば、侵入者撃退用の仕掛けが張り巡らされているとか、このまま海までいってしまうとか、ここはYAF(優盟エアーフォース)の滑走路だとか…。
「とにかく、無限に続く土管はありえない。もっと歩いてみるか…。」
何の生物の気配も無いこの土管の中を俺は、自分の足音と共に、進むしかなかった。




>>
「…ふぅ!」
「渓、お疲れ〜!」
「お疲れ〜。」
午後2時過ぎ。クラブを終えた由香が、あたしの元へやって来た。このプールの横のベンチで、あたしたちはいつも待ち合わせているのだ。
「今日は1日中部活に没頭したから、ぐっすり眠れるわ。」
「そうね。こんなに頑張ったの、久し振りよ。」
伸びをする彼女の手には、布に覆われたMy槍が、しっかりと握られていた。傍から見ると弓道っぽいところが、何ともおしゃれだとあたしは思う。
「どう?帰りにケーキ屋でも寄らない?」
「ゴメンね。あたし、甘いの好きじゃないの。」
「そう言うと思って…ホラ!」
そう言って由香は手提げカバンから、1枚の紙切れを出した。
「何コレ?」
「駅前のケーキ屋のチラシよ。」
「だから〜、あたしは甘いのは苦手なんだって――」
そう言いながらあたしは、そのチラシに目を通してみた。


「期間限定☆東北名物辛口地酒『滅鬼(めっき)』をふんだんに使用した『滅鬼ケーキ』…240円」


「由香大好き!!」
あたしは嬉しさのあまり、由香に抱きついてしまった。
「あ、コラ!」
「頬擦り頬擦り〜。」
「ちょっと、渓、喜びすぎだってば!」
あたしの喜びにひいたのか、由香はあたしを無理矢理剥がした。
「分かったわ。由香、早速そのケーキを食べに行くわよ!」
「あ、私は違うのにするから(汗)。」
「何言っているの!人間、何でも挑戦よ!」
さっきまで断っていた事も忘れて、あたしは由香の手を引いて先を歩き出した。
「ちょっと、もう…渓ったら、そういう物には目が無いんだからぁ〜。」




>>
俺は足を止めた。疲れたわけではない。そりゃもう、かれこれ6時間ほど歩いてはいるが、だからといって疲れたわけではない。歩きやすい靴のおかげだ。それよりも、この土管を揺るがす音と振動が気になる。
「何だ…この、地中深くから湧きあがってくる様な音は…?」
初めは小さく、しかしだんだんと大きくなってくるその音は、何か強大なものに感じられた。
「まずいな…。」
俺は改めて、土管を見てみた。この土管は直径2m程の円柱体で、逃げ場は無い。もし土管が何らかの理由で割れでもしたら、たとえ心獣を使ってでも、俺は助からないだろう。
「とにかく、戦闘準備に入った方がいいな。」
俺はまるで格闘ゲームのキャラクターのようなポーズを取り、そして心獣を発動させた。これが俺の戦闘準備だ。フリー・ユア・ソウルは、こうした状況にはあまり向かない心獣だが、予想外の出来事にも対応できる柔軟さもある。
俺の心獣は、自分の体を磁力で強化させる能力だからだ。俺の体から離れる事は出来ないが、球体の磁力場を生み出し、そしてそれで筋力を強化させる。正確には、通常よりもパワーやスピードが倍増する。この磁力場を操る事で、体の各部を強化する事が出来る。
「ただし、磁力場は一度に最大3つまでだがな。」
とりあえず右膝と左膝、さらに右肘を強化させる。これで完全に俺の戦闘準備は完了だ。後は何が起こるか、判断するだけだ。
「…来る!」
地響きのような音が、ついにやって来た。俺はどんな状況にも対応するつもりでいた。だがその前に、少し気付いた事があった。
「この土管の臭い…塩素だな。」
塩素、それは誰もが知っている物質で、殺菌作用があるため、主にプールで使用されている。…プール?
「まさか!?」
気付いたと同時に、その地響きの正体が現れた。それは土管を勢いよく流れる、大量の水だった。
「こ、これは、プールの水…がばごばびが…!」
一瞬にして、俺の体は水に飲み込まれ、そしてせっかく歩いてきた道を引き返す事となった。
「ハァ。振り出しに戻る、か。」
頑張って歩いてきた道だが、これだけ大量の水が相手では、さすがの俺も敵わない。仕方が無いのでそのまま俺は、流れるプールで楽しむ事にするのだった。

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