「終わったわ」
遠く離れた場所で双眼鏡を覗きながら、ニコが呟いた。
「お疲れ、エル。しばらくはゆっくりしましょう。この成果を叩きつけて、政府からたっぷり謝礼金をふんだくれば良いわ。今度はみんなで旅行に行きたいし」
「黒いなぁ博士は」
頭をかきながら、アルは呟いた。
「でも、博士らしくて安心しました」
「それ、どういう意味かしら?」
親しげな毒を吐くニコ。その時アルが、ふと不安そうな顔になった。
「あ、でもまだ、組織の重役が残ってるのか…どうします?」
「それはもういいの」
ニコは白衣のポケットから、1枚のCDを取り出した。さきほどラジカセから取り出したものだ。そこには黒いマジックで『ウィル・バルトス』とサインが書かれていた。
「モノポリアのボスは、私の同僚なの」


それは、まだ彼女がモノポリアに所属していた時の事である。エルが障害を持って誕生したのは、彼女がふと起こした失敗にあった。最も不安定な時期に、ビーカーを少し揺らしてしまったのである。何気ない動作だが、当時のキメラ作成では重大な過失であった。
エルが誕生した際も、彼女はそのことを案じていた。
「起こった事は仕方が無いよ。それに良い事もあるじゃないか。彼女の戦闘能力は、今まで作ってきたアルファベッツの中で最高だよ」
何度もデータを取っていたマナギは、優しくそう言ってくれた。
それでも気に病む彼女のため、特別な措置も取ってくれた。他の研究員から非難を浴びさせないため、彼女が失敗した事を秘密にしてくれたのだ。ただ、ボスにだけはその事実を伝える事にした。さすがはモノポリア、ボスも快く承諾してくれたのだ。
「ウィル…」
そんなある日、ニコは偶然目撃してしまった。彼が秘密の扉を開け、その中の放送室で映像を吹き込んでいる現場を。しかもそれが、ボスから送られるものと全く同じ事を。
「…黙っているよな?」
「はい(汗)!」


「まさか彼も、食堂のアイスをつまみ食いしようとした私に見つかるとは、思っていなかったらしいわ」
「でも、その人が今もボスをしているかどうかなんて、分かりませんよ?」
「いいえ、分かるわ」
懐かしい過去を思い出しながら、彼女は言葉を足した。
「彼は…人の研究を奪うのが上手だったから」

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