「許さない」


エルミナスの体に衝撃が走った。背後から駆けてきたシデンに、吹き飛ばされたのだ。その瞬間、音波による一撃が、シデンの頭部に襲い掛かった。
「きゃぁっ…!」
短い悲鳴が響き渡った。エルミナス用の強烈な攻撃が、彼女に被弾した。
それでも幸いだったのは、彼女が走っていた事だ。最も音が集まりあうポイントからずれたため、ダメージも最小で済んでいた。
「シデン…?!」
体の疲れも忘れ、慌てて彼女を抱き寄せるエルミナス。一目見ただけで、その被害の大きさが分かる。シデンの両耳から、また新たな赤い液体が流れ始めていた。
「何やってんだ、お前は?!」
ルーシェルは思わず叫んだ。
「自分がダメージを受けるかもしれないって知りながら! …廃棄だ! 助けてやろうと思っていたが、もうやめた! お前はエルミナスと共に、ここで四散しろ!」
とうとうシデンが裏切った事に、ルーシェルは激情した。ここで彼女をむざむざ寝返らせるわけにはいかないのだ。
「シデン…」
動かない少女の頭を撫でながら、エルミナスはまた涙を流していた。彼女は滅多に、人に助けてもらう事は無かった。あるにはあるが、人生で2度しかない。
1人は、正義に目覚め始めていた自分を、身を挺して逃がしてくれたニコ。もう1人が、シデン。
「姉さ…ん」
シデンには今、聴覚が無い。彼女は必死に口を動かした。
「もっと…おしゃべり、したかった…な」
その口元には、かすかに笑みがこぼれていた。


「これ…借りるわね」
シデンの腕から、優しくデバイスをはずすエルミナス。そして彼女はそれを、反対の腕に巻きつける。そして開口一番、彼女はルーシェルを驚かせた。
「あなた…代用ね?」
「な…?!」
「トライデントでない人がこれを身につけている時点で…あなたが本来の計画の代用品である事と、組織に力が無い事が分かるわ」
彼女はデバイスの、真ん中のレバーを引く。その動きに無駄は無い。
「逆に言うと、代用品でもこれは使用できるってこと…同じ属性なら尚更ね」
「まさかお前! バカな! お前なんかに使えるものか!」
「どうして? 私の方が先輩だって事、お忘れかしら?」
『SET READY?』
「バカにしないでちょうだい!!」
『WILL O'THE WISP SYSTEM GO!!』

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