「許しません」
手が離される。シデンは怒りに満ちた視線を、彼女に向けた。
「…殺してよ」
「出来ない…出来るわけがない…」
しばらくすると彼女の涙が、シデンの頬に伝ってきた。
「生まれて間もない妹を、この手にかけるなんて…私には…」
せきを切ったように流れる、エルの涙。思い出してしまったのだ。自分が今まで倒してきたキメラたちを、そのたびに消えていった命を。
今までも彼女は、生まれたてのキメラを倒してきた。しかし、シデンは彼女によく似ている。姿も、能力も。思わず自分の姿を見てしまったのだろう。
「シデン、私たちのもとへ来ない? あなたはまだ若いわ」
「…気持ちは嬉しいけど、ダメだよ。これだけ暴れまわったから、嫌われるに決まってる」
「安心して。食べ盛りで生活費を圧迫しているのに、ずっと飼われている子もいるから」
「ふふ…楽しい人」
その時シデンは、初めて笑顔を見せた。少女らしい、屈託の無い笑みである。
「でも、私は…」
それでもシデンは首を縦に振らない。


「敵に情を移されたか? せっかく教育してもらったっていうのに…」


突然2人に、甲高い反響音が襲ってきた。
「こ、これは…?!」
突然の奇襲に、慌ててシデンに覆いかぶさるエル。その視線の先には、既に鎧をまとったキメラが、こちらに指を向けていた。どうやらずっと隠れていたらしい。
「レ…イトル…!」
「体力を磨耗したお前は、もう用済みだってよ。安心しな、俺が一緒に葬ってやる!」
エルは理解した。彼女は、青と黄色の鎧を着た彼に向かって叫ぶ。
「あなたたち…2人でやって来ていたのね?!」
「さすがはエルミナス。頭の回転が速いな」
攻撃を続けながら、男・レイトルは喋った。
「モノポリアの最終手段! 最強の精鋭を、塊でもって畳み込む! その真髄、ここにあり! …て感じだよな?」
長い戦いの末、とうとう現われた最後の刺客。エルミナスの拳は、自然と強く握られていた。


「命を奏でる福音、ルーシェル参上!」

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