巻き上がる黒煙の中、がれきの下から誰かが這いずり出てきた。負傷したのか、仮面のヒビから赤い液体が滴り落ちている。
「痛い…」
その時仮面が、音を立てて割れた。真っ白な肌が、太陽に照らされる。立ち上がったのはウィルオウィスプだ。
「凄かったよ、姉さん…無敗のヒロインって本当だね」


「だから言ったでしょ? 『あなたはまだまだ子供ね』って」
背後から、優しく抱きつくエルミナス。その感触を受けて、ウィルオウィスプはがくりと跪いた。彼女の体はもう、限界に達していたのだ。
「私の目はごまかせないのよ。さっきだってあなた、途中でバッテリー切れしたじゃない」
エルミナスは彼女を横に寝かせながら、デバイスのレバーを引く。鎧は音をたてず、どこかへ消えていった。
「それにしても…デンキウナギの妹が出来るなんて、想像もしていなかったわ」
「でも、その夢もこれでおしまい。私は負けたの。このまま楽にあの世へ送って欲しい」
鎧を脱いだシデンは、エルの腕を掴み、自分の首を掴ませる。
「私は準備出来てるから…あとは姉さんのタイミングで」
「シデン…」
「早くした方が良いと思うよ。私はトライデント。あなたを始末するために生まれてきたの。いえ、死ぬために生まれてきたのかも知れないね」
彼女は静かに目をつぶった。敵に自分の命を散らせるため、自分の役割を全うするため。
エルの手に、力が込められた。

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