あくる朝…。
「ダメ…心当たりが無いわ」
モニターを食い入るように見ていたニコが、音を上げた。
「そもそもこのデバイスは、私が組織を逃げる前に作っていたものをベースに、いくつか改良を加えたものなのよ」
「それなら、一緒に開発していた人が…」
隣で本を読んでいたエルが、そう尋ねてみる。しかし、それもすぐに消えてしまった。
「それは無いわ。だってこれは、私1人が作ったんだから」
はっきりと言い切るニコ。
「もちろん、他の部署の人間にも見せなかったわ。後で特許を取って、お金でも取ろうとか思ってたから」
彼女のせこい金儲けはさておき、これで情報は出尽くしてしまった事になる。あと少しでモノポリアの裏事情にまで迫れただけに、口惜しい結果となってしまった。
ふとエルが、厳しい口調になった。
「ニコ、考え事している時くらい、ボリュームを下げなさい」
「却下します。これくらいじゃないと、逆に考えがまとまらないの」
「この子ったら、本当に…」
姉か母親のような注意をするエル。そんな気遣いをしてくれる彼女が、ニコは大好きだった。


ふと、音楽が気になった。それと同時に、夢を思い出す。
「…借りたんだっけ」
ニコはぽそぽそと呟いた。
「出身地がちょうど同じで、『じゃあ貸してあげるよ』て言われて…そういえば、そのまま…」
今度はまるで夢遊病者のように、ふらりと立ち上がる。その異様な空気に、エルは少しドキッとした。
「このCD…誰から…?」
ちょうどその時、玄関から来客を告げるチャイムが鳴り響いた。きっとアルが対応してくれるだろう。そんな事を考えている間に、ニコはオーディオの電源コードをぶつりと引き抜いていた。
「ちょっと、ニコ?」


「エルさーん! お客さんですよー!」
突然聞こえてきた、アルの声。自分に? また白杖の訪問販売だろうか? それともカルト教の勧誘? ここを訪れる人のほとんどが、エル相手の用事だったりするのだ。
どちらにしろ、アルが呼ぶのだから、とりあえず行ってみる価値はある。彼女はニコを放って、玄関へと向かった。
「エルさん、いつ友達を作ったんですか?」
異変は、アルと出会った時にも訪れた。彼女は特に、友達を作った事は無いのだ。
「アルさんは、ニコの様子を見てください。少しおかしいんです」
「分かりました」

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