「へぇ、大きく出たじゃないか」
感心するようにうなずく緑の王・ユグドラシル。
「それなら僕は、5分でケリをつけるとするか」
その瞬間、エルミナスの足が、何本ものツタに絡め取られた。一切の動きを見せずにツタを操ってみせる、そのユグドラシルのパワーの高さを、計算出来なかったのだ。
「あ、しまった」
「あまり激しく動かない方が良い。もがけばもがくほど、そのツタはしなやかに食い込んでいくからね」
そう呟くと彼は、腕につけられた装置に手を伸ばすと、真ん中のレバーを一気に引いた。
『SET READY?』
何の感情もこもっていないその声は、何度聞いても、エルミナスのそれと酷似していた。
「どうせいつかは使うんだ。とっとと使ってしまうのも悪くない」
右のレバーを一気に引くユグドラシル。大量の電気が、デバイス中を駆け巡った。
『YGGDRASILL SYSTEM GO!』


彼は両手をそっと、地面に向けてかざした。轟音が響き渡ると同時に、おびただしい量のセイタカアワダチソウが、エルミナスの周囲を完全に包み込むように生え広がった。コンクリートはおろか、周囲のビルの壁面にさえ、重力を無視して生える様は、この世のものとは思えない光景だ。
「これは…!」
「これぞ百花繚乱! まさしくセイタカアワダチソウの天国! どうだい、世界一優美な花に包まれた感想は?」
『どこが美しい花よ』と心の中で訴えるエルミナス。だが、ここで気弱な態度に出るわけにもいかない。
「思ったよりショボいのね。もっと素敵な舞台だと思ったのに」
その時、花びらの1つ1つが、彼女目掛けてグルリと回転した。もし、目の前にいた軍隊全員に銃口を向けられる事があるとすれば、きっと同じ恐怖になるだろう。
「動かない方が良い。少しでも動けば、全ての花を破裂させ、花びらや葉っぱ、種で君の体を切り裂く!」
ユグドラシルの最終警告を聞いて彼女は、体の動きを止めた。その口ぶりからどうやら本気のようだ。確かに、こうやって遊んでいる事に、お互い何の意味も無い。どちらかがとどめを刺さなければ、この戦いに終わりは無いのだから。
エルミナスは体の力を抜き、深いため息をついた。


「どうやら私、言い間違えちゃったみたいね」
大量に流れた電流が、周囲の植物を一気に焦がす。
「1分で終わらせてあげるわ!」

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