「ユグドラシル…北欧神話において、世界をささえる世界樹」
「その通り。僕は、全ての植物の頂点に立つ男。それくらいの素質があるのさ」
そう言って決めポーズをとるワクラバ。彼はさらに言葉を足す。
「つまり、ユグドラシルの正体はセイタカアワダチソウ、と」
「違うわよ…て、え?! 何? セイタカアワダチソウって何?!」
戸惑うエルミナスに、ワクラバ扮するユグドラシルは呆れた。
「周りに咲いている、この美しい植物たちの事だよ」
「これ、よく川原で咲いている雑草よね」
「雑草なんてとんでもない! 北アメリカで生息する、キク科アキノキリンソウ属の多年草だぞ! 帰化したけど」
秋になると黄色い花を咲かせる、すすきと一緒に群がって生えている、あの植物だ。
「僕はこの、セイタカアワダチソウの遺伝子を組み込まれたキメラなんだ。君を倒すために作られた、特別性のね!」
彼が両手を広げると、背後から無数の植物が、アスファルトを砕きながら生えてきた。先程とは比べ物にならない、いや今までのキメラとも比べ物にならない程のパワーだ。さすがのエルミナスも、思わず後ずさりをした。
「君が焦がし尽くすのが先か…僕が吸い尽くすのが先か…先に賭けさせてあげよう」
「もちろん、焦がし尽くす方よ。自分を信じなきゃヒーローは名乗れないって事、分からせてやるんだから!」
力強く振り上げる拳には、激しい火花が散っていた。彼女の名前はエルミナス。たくさんのキメラと戦ってきた、歴戦の勇者だ。
「さすが先輩。なら僕も見習って、自分を信じてみようかな!」


2人の会話が終わった途端、戦いが始まった。おびただしい数のツルが、エルミナスの体を捕らえようと、ウネウネと動き回る。
「『トルニオン・スプラッシュ』!」
彼女の指の先から、小粒の電気がばら撒かれる。それに触れたツルは、その体に風穴を開けるか、ブツリと音を立てて切断され、コンクリートの上に横たわった。それにしてもエルミナスは、岩盤をものともしない植物の破壊力に、違和感を覚えた。
「植物なんかで、よくコンクリートを割れるわね」
「出来るさ。どんな植物も、固い岩を引き裂くだけの生命力を持っているんだ。植物の力は偉大だよ。甘く見ちゃ困るなぁ」
その間も、ユグドラシルの猛攻は止まらない。

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