「君は知らないかもしれないが…俺はつい最近やって来たんだぞ?」
「小耳に挟んだ程度でも良いの。とにかく知っている事は全て話してもらうわよ」
その時ジェイの顔は、少し困ったような雰囲気だった。
「1つだけ確かなのは…エルミナス、お前のために用意された計画だって事だ
。でも、それ以上は知らない」
しばらく彼は黙った後、こう話を切り出してきた。
「これからずっと、ケイは君の元にいるのか?」
「多分。本人も気に入っているみたいだったから」
「…2人」
それを聞いた彼は、決心するように呟いた。
「2人…新しいキメラを紹介された。そこの博士はこう言っていた…『見てごらん、彼らが君の、新しい兄弟だ』と」
「2人?」
「わざわざ兄弟と言った位だ…アルファベッツ並みの戦闘力はあるな」
「それより、どうして急に? さっきまでそんな事、言おうと思ってなかったはずでしょ?」
彼は静かに笑った。
「妹分の命を、ケイの命を、少しでも長くできれば…と思っただけだ」
その声は優しくもあり、自嘲的でもあった。
「さぁ、飼い主への反逆はここまでだ! 殺せ! この体を四散させろ! 次に動き出したら俺は、君の首をへし折ってやる!」
「言われなくても、分かっているわ」
最後の力を振り絞り、右腕に電気を流すエルミナス。彼女はためらわず、彼の心臓へ拳を振るった。


胸に当てられた手を、そっとどけるエルミナス。あれだけの電気を受けて、力など入る訳が無い。ましてや彼女はもう、全ての電気を流し尽くしてしまったのだ。
「これで良いのね?」
ジェイは答えなかった。彼は既に、息絶えていたから。
エルミナスの拳を受け続け、彼の心臓はもう止まっていたのだ。彼女が手を下す必要も無かった。ただ、社会を乱した事への罰として、彼自身が処刑を選んだのだ。自分がした事は間違っていると、拳で突きつけられたかったのだ。
その場でエルミナスはしゃがむと、そっと何かを拾った。彼の犬歯だ。何度も鎧をかじったため、取れてしまったらしい。彼女はそれを手の中に収めた。
「使い道は分からないけれど、大切にするわ…記念品として」


石の山に埋まった彼を放って、変身を解いたエルは1人、帰路についた。白杖の音が、いつかの彼の足音に似ていて、彼女は泣いた。

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