お互いそれ以上の進展が無く、その体勢のまま数分が過ぎた。結果を言えば、まともに電流を浴びているジェイの方が、明らかにダメージが多かった。体から漂う黒い煙と、どんどん黒ずむ体を見れば、それは明確である。
しかし、彼の口は、エルミナスの鎧にヒビをいれていた。いや、彼の疲労に反して、ますます強力になっている。世紀の逆転劇が起こるかも知れない。エルミナスは覚悟を決めた。
「ねぇ、オオカミさん…2人とも負けたら、さっきの賭け…誰が仕切るのかしらね?」
「何?!」
次の瞬間、エルミナスは両腕をジェイの首にまわし、離れないように抱きついた。
『SET READY?』
彼女は何のためらいも無く、腕のフェノメナデバイスのレバーを引く。
『NAKED SYSTEM GO!』
空気を切り裂きながら、エルミナスを覆っていた外骨格が弾けとんだ。電子機器を剥き出しにした彼女は、どこか笑っていた。
「こっちの方が、伝導率が良いのよ」
「しまっ…!!」
「必殺! トルニオン・イラプション!!」
その発電量の多さ故に、普段使う事も無い技を、彼女は発動した。
技の仕組みは単純明快である。限界ギリギリまで電気を起こし、それを体内で爆発・放電させる、これだけだ。
さすがの彼女も、この威力のおかげで感電してしまうため、使う時が限られている。まさに文字通り『切り札』なのだ。
今、黄色いエネルギーが、2人の体を包み込んでいく。


「あ…ぐが、ぐるぅう…」
全身に電気を流し込まれたジェイは、その勢いで、背後の石の山に叩きつけられた。一方エルミナスも、ビクリと体を震わしたまま、ジッとしている。2人とも休んでいた。こうなっては、先に動いた方が勝者だからだ。
「き、効く…さすがは私の電気…」
何分経っただろうか、エルミナスは弱々しくも、体をムクリと起こした。そしてそのまま、ジェイの元へ歩いていく。石に半分埋もれ、動けないでいるジェイの前に、彼女は立っている。
「賭け…私の勝ちね」
「…やるならやってくれ。情けはいらない」
「もちろん。でもその前に、聞きたい事があるの」
ジェイからの反応は無い。彼女は言葉を続けた。
「『トライデント計画』っていうのは、どんな計画?」

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