採石場…それは、道路工事などに使われる石を集める場所の事だ。よくヒーローたちが戦う舞台として利用される事から、お約束のステージと呼ばれている。
「こっちは1人だ! 条件どおり、誰にも話していない!」
ジェイの言葉に応じるように、空中からエルミナスが落下してきた。着地の瞬間、あたりに石を撒き散らす。
「10時2分前。約束を守ってくれて嬉しいわ」
「さぁ、ケイを見せろ! ケイの安全を確認するまで、俺は安心出来ない!」
その言葉を聞いた瞬間、エルミナスは妙にモジモジし始めた。
「いや…その、ね…こっちもそうするつもりだったんだけど…そうしてあげようと思ったんだけど…ね、その…」
「まさか…」
「朝ごはんを食べ終わった瞬間、どこかに行っちゃって」
「あ…あいつという奴は!」
何となく分かっていたのか、思った以上に挫けないジェイ。そうでも無ければ、彼女と一緒に生きていく事は出来ないのだろう。
「まぁ、良い! お前を倒した後! ゆっくり探せば問題無い!」
「分かっているのなら話は早いわ。10時まであと10秒ちょっと。どうする?」
「それくらいは待とう。カウントダウンは任せた。君の方が正確そうだし」
彼がみにつけている時計は、1日に2秒ほど時刻がずれそうな安物だった。
「カウントダウン…4…3…2…1…」


「0!!」
エルミナスは大きく跳躍した。右腕に流れる電流が、バチバチと音を立てる。今までのキメラたちは、それに触れる事無く、回避するのがセオリーだ。しかし、彼は違った。
「ふん!」
落下にのせた拳を、左腕で受け止めたのだ。もちろん電流などお構い無しに。
「男なら、接近戦だろ?」
「それなら、女の私も」


2人の間で、いくつもの拳が舞った。お互い戦闘慣れしているのか、殴られても怯む隙を見せない。特にジェイのそれは、生身である事も考えると、相当なものだ。
お互いの拳がぶつかり合ったとき、少しだけ2人の動きが止まった。
「お強いのね?」
「無為無策に突っ込んだわけじゃない」
再びエルミナスが拳を振った、その時である。ジェイはさらに前進し、ほとんど抱きつくような体勢になった。
「俺の恐怖は、ここからだ」
その口が、エルミナスの肩パーツにヒビをいれるのに、時間はかからなかった。

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