夜、エルの疲労はピークに達していた。一刻も早く寝なければならない。何故ならエルの発電力は、自然治癒でしか回復できないからだ。しかし彼女には、それを知っていながらも、尋ねたい事が山ほどあった。
「どうしてジェイさんは、素直に帰ったんだろう?」
布団の中で彼女は、独り言のように呟いた。
「あのジェイって子はね、あなたより先に作られたアルファベッツよ。オオカミの特徴のせいか、リーダーシップを取るのが上手だったわ」
当時を思い出しながら、ニコは話を続けた。
「でも、その後作られたアルファベッツだけは、彼の言う事を聞かなかったの。とてもひどい気分屋で、1人遊びが上手だったわ。だから彼は、その子を妹分として面倒を見続けたの」
「それが、ケイさんですか。昔からあんな感じだったんですね」
「えぇ。それはもう、びっくりするくらい」
当の本人は、既に眠りについている。食ったら寝る…彼女が一番野生的だった。
「きっと逃走後も、2人で生活していたんだわ。それなのにケイったら、食欲で兄を裏切っちゃって。ま、ケイらしいと言えば、ケイらしいけれど」
言い終わると同時に、ニコは大きく伸びをした。今日得たデータの解析を終えたのだ。
「さ、今日はもう寝ましょ。明日は大事な戦いがあるんだから」
「おやすみなさい」
こうしてエルの、人生で一番疲れた日が、幕を閉じた。


「どうしたんですか、博士、こんな夜遅くに?」
エルがすっかり眠りについた頃、ニコは、アルの部屋を訪れていた。手には愛用の枕が、しっかり握り締められている。
「ホ、ホラ! エルは疲れているから邪魔したくないし、明日ちゃんと起きられるか心配だし、この部屋の方が日差しがよく入るし…」
「一緒に寝たいんですか?」
非力ながらも、鋭いパンチが、彼の頬に食い込んだ。顔を真っ赤にするニコ。一目散に布団に潜り込む彼女を、アルは止めなかった。
「どうかしたんですか?」
彼女はしばらく無言だった。
「全く…いつから丁寧語になったんだか!」
「確かに、妹分にこの口調は変ですね」
「…」
「お話でも聞かせてあげましょうか?」
「…聞いてあげるわ」
「素直じゃないなぁ」
ニコはその晩、顔を見せる事は無かった。

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