「…このあたりで良いかしら?」
正義のヒロイン・エルミナスは、周囲を探知している。今や彼女は、ファンや追っかけに狙われる、モデル並の有名人となっていた。もはや人前で変身する事は不可能である。変身を解くのも同様だ。
だから彼女は仕事終了時には、こうやって人気の無い場所でこっそり変身を解き、私服で家まで帰るのだ。


今、彼女を覆っていた鎧は、音も無く解除された。それらは空気と混ざり、データとなって情報の海に四散した。
「ふぅ。やっぱり連勤はしんどいわ」
さすがの彼女も、ここ数日間の戦闘の疲れを隠せずにいた。白杖を素早くつなげると、それをコツコツ地面にあてながら、彼女は帰り始めた。
「こうも肉体作業ばかり続くと、嫌になってしまいますね…いえ、それよりも先に、精神がまいっちゃうかも」
彼女も生物だ。同じ仲間であるキメラを倒すのは、気が引ける仕事ではある。しかし、彼女はもう決めたのだ。モノポリアの目標、やり方、人々への影響…そのどれもが間違っている。本当の平和な世界を目指すため、ニコ達と共に戦い続ける事…それが、今の彼女の目標だ。
「でも、ここまで連続だと…やっぱりなぁ…」


研究所まであと数百メートルという所で、エルはふと違和感を覚えた。足音がもう1つ聞こえるのだ。それも、自分の足音に合わせるように。彼女は少しだけ休憩するふりをして、道路脇に寄った。彼女が止まると同時に、背後の足跡もピタリと止まった。誰かいるわね、と彼女は確信した。
「『CFスキャン』」
彼女は電流を、普段以上に流した。道路中の物体はその抵抗を受け、彼女の目に明確な凹凸、有機体の有無を映し出す。
「あ、いた」
背後の電信柱の陰に隠れるように、足音の主が立っていた。少年だ。年齢は自分と同じ位、身長は彼の方が若干高いようである。ジッと見ていたいのか、何か話しかけたいのか…実に微妙な位置にいるのが何とも歯がゆい。
「ふふ…可愛いわね」
彼女が呟くと、少年は少しだけ身を隠した。とはいえ、周辺の物体全てをスキャンされているのだから、隠れるだけ無駄なのだが。
「私に何か用かしら?」
エルの言葉を聞くと、少年はすんなり出てきた。

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