機械に囲まれた研究室、いくつも並ぶカプセルのかたまり…再び悪夢が始まっていた。
「う〜ん…やっぱり、遺伝子操作の失敗が響いているみたいだね。一応順調に育ってはいるけれど、いつ危険な状態になるか…」
同僚である白衣の男が、そう説明をする。
「どうしよう…私のせいよね、こんな事になっちゃったのは…?」
「『勝手にカプセルをいじったのは誰か』と問われれば、それは確かに君だ。ニコ博士」
普段は勝気な性格だが、この時ばかりはショックを隠しきれない、幼い頃のニコ。いくらキメラとはいえ、彼らも生きているのだ。人の生き死にに免疫の無い子供に、この現実は少し辛すぎた。
それを悟ったのか、同僚の男は、彼女の頭をポンと撫でた。
「しかし、君に任せようと言い出したのは私だ。培養担任は私の先輩だ。致命的な障害を受けながらも、ここまで大きく育ってくれたのはこの、カプセルの中の子だ。キメラを作るという事は、皆の責任であり、皆の努力でもある…それを忘れない事だな」
カプセルの中に浮かぶ少女…彼女は、アルファベッツ計画で作られた、Lの番号を持つキメラである。遺伝子・生物工学以外の者が関与したキメラは、後にも先にも、彼女だけである。
「あの子を死なせないで下さい、お願いします」
「分かってる。君の子供を死なせはしない。だから頭を上げなさい」
「ありがとうございます…マナギ博士」
ぼんやりと映る男の顔…それはまさに、若かりし頃のマナギ、その人であった…。
「はっ?!」
慌てて飛び起きるニコ。真っ暗な部屋の中で、彼女の荒い息だけが響く。
「また嫌な夢見ちゃった…」
思い出さないようにしていた、自分の過去を見つめてしまい、落ち込むニコ。悲しくはないけれど、なんだか泣きたい気分になってくる。
ふと彼女は左手に、暖かな感触を覚えた。薄明かりをつけてみるとそこに、彼女の手を握りながら眠りにつく、アルの姿があった。
ニコは周囲を見渡す。エルはすっかり眠りについていた。そのそばでうずくまるケイも、小さな寝息を立てている。
誰も起きていない事を確認すると、彼女は灯りを消した。そしてアルの腕に抱きつくようにして、もう一度眠りについくのだった…。
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