舞台は再びニコ研究所。
「う〜む! 良いダシが出てるわぁ、これ〜! カツオ節が良い! もうお腹の奥からとろけちゃう〜」
満面の笑みを浮かべる少女。突然現われたこのお客は、上機嫌にうどんをすすっていた。
「…」
「おかわり!」
「…」
アルは無言でどんぶりを受け取ると、そのまま彼女の正面に座った。
「何杯目だと思う?」
「んー…5? 6? 分かんないや」
テヘッと笑う彼女に、アルは言い聞かせるように呟いた。
「14杯」
「おー、凄いねー、にゃは」
全く動じない彼女を見て、彼はため息をついた。
「君のお腹を満たすために、僕は何も食べていないんだよ…」
「それは大変だ。一緒に食べよーよ?」
「さっきの1杯で、全てのうどんが消えたよ」
「そりゃ仕方ないねー。食事は戦争だよ? 文字通り『食うか食われるか』の世界なんだから。君は私に食べられちゃったってワケねー、にゃはは…」
「よし! 早速出て行ってくれ」
「うわーん!」
容赦の無い発言に、泣きつく少女。普段から運動をしているのか、すがりつく彼女の腕力は、彼の胴体を真っ二つにしかねない程の強さだった。
「そんな事言わないでよー! 私、しばらく何も食べていなかったんだから〜。せめて食後のデザートまではここにいさせて…!」
「ぐ、わ、分かった…分かったか、ら…!」
彼女の悲しみと、アルの苦しみが比例する。彼は朦朧とする意識の中、そう言った。
「やた! それじゃイスの上で、大人しく待ってるねー!」
アルの意思を確認するや否や、あっという間に泣き止み、イスの上にちょこんと座る少女。『女の子とは恐ろしい生き物だな』とアルは思った、相手が悪いのだろうが。

 戻る