「これ以上は無理かぁ…どうしようかな」
アルから渡された資料に目を通しながら、ニコ博士は悩んでいた。そこへ丁度、コーヒーカップを手にしたエルが、白杖をつきながら現われた。
「あら、どうしたの? そんなに悩んじゃって?」
「研究費を流用して所員旅行を計画しているの」
何か言いかけたが、エルはぐっとこらえた。
「お金は足りているの?」
「それが、ちょっと足りないの」
隣に腰掛けるエルに彼女は、手にする紙を見せた。
「2.5人分しかなくて」
「それでは、1人余っちゃうわね」
「誰がお留守番をするか…そこで悩んでいるのね?」
「え?」
ニコは驚いた。
「お留守番はアルに決まってるじゃない。だって私が行きたいでしょ? エル1人に研究所を任せるのは可哀想でしょ? 残りはアル」
「アルさんだって、行きたいと思うけれど…」
「そう? 私達がいなくなって、面倒な家事をしなくて済むんだよ? 理論的だと思うけどな」
ニコ博士お得意の自己中心的判断に、さすがのエルも…
「それもそうですね」
賛同した。
「それじゃ、何に悩んでいるの?」
「浮いた0.5人分のお金を、どれだけ有意義に使うか、考えているのよ。部屋を良くするか、料理を良くするか…エルはどっちが良い?」
「私はですね…」
女の子2人は、旅の計画を立てるのに夢中だった。


「…という訳でアル、休みを楽しみなさい」
「アルさん、是非羽を伸ばして下さいね?」
旅行当日、女性2人は既に荷物を手に、玄関に立っていた。
「それ、旅行に出掛ける人のセリフじゃないですよ?」
さすがアル、それでも彼女達を止めようとしない。出来た人間というか、主張が少ないというか。そこが彼の特徴であり、長所であって、短所だった。


「おみやげは何が良い? 食べ物? 置物?」
「博士の個性におまかせします」

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