「お疲れ、エル」
一番最初に彼女を迎えたのは、ニコだった。
「ただいま」
血まみれになって帰ってきたエルの顔は、ひどく暗かった。ニコはカップを手渡した。
「はい、コーヒー」
「…珍しいわね、ニコがコーヒーを淹れるなんて」
「コーヒーくらい淹れられるわよ。普段はただやらないだけ」
それは、妙に濃い上に、ごまかすように砂糖をぶち込んだ、荒い味だった。
「苦い…」
「不謹慎なのは分かってるんだけど…」
まるで独り言のように、しかし彼女に聞こえるように、ニコは口を開いた。
「自慢の愛娘が無事に帰ってきて、私は嬉しい」
突然の言葉にエルは、キョトンとする。しかし、彼女のストレートな親子愛の表現に、何だか落ち着きが戻ってくるのを実感した。
「こういう時くらい『お母さん』って呼んでも良いのよ? 私は寛容なんだから」
今日はとても悲しい日。しかし、とても優しい日でもあった。
「お母さん…コーヒー、苦い」


「お疲れ」
チータからカプセルを受け取るマナギ博士。
「しかし、チーターの遺伝子をもっているのに、君はちっとも疲れていないようだけど…?」
「そりゃもう、普段から筋トレばっかりしてますから」
「…そうか、ならいいや」
自らの弱点を自らの手で克服したチータ…その姿勢にマナギは、少なからず驚いた。運ぶのに精一杯で、エルミナスとは戦えなかった彼だが、彼女の遺伝子を手に入れたのは大きかった。
「これで、対エルミナス用キメラが作れそうだ。見ていろ、エルミナス…この計画の恐怖は、これからだ! ククク…ハーッハッハッハ…!!」
マナギの邪悪な笑いはその日、有限会社モノポリア中に響き続ける事となった。


「そうだ。お前には特別報酬を出さねばならないな。今月、特別にボーナスを出しておこう」
「やった! ありがとうございます!」
悪の組織『モノポリア』の福利厚生は案外充実していた。

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