「…お姉ちゃんは、ニコ博士と一緒だったんだ」
変身を解いたエルは、ぐったりとしたアイに寄り添っている。
「その日から、私達はモノポリアと戦ってきたの。私は、皆の笑顔を見るのが好きだから」
「私、ニコ博士の心も裏切っちゃったんだ…」
アイは辛そうに呟いた。
「あなたも、一緒に来て良いのよ? 今のところ、キメラに対抗できるのは私達、キメラしかいないの。一緒に戦ってくれないかしら?」
小さな手を握り締め、提案をするエル。しかし、アイは首を横に振った。
「ダメだよ…私が送ったデータで、7人は殺されるから」
それは、彼女がチータに渡した、あのカプセルの事だった。エルの血液を検査すれば、彼女の遺伝子データが全て手に入る。そこから新たなキメラが作られる事だろう。
一刻を争う事態だが、もう既に15分が経過している。しかもチータは足が速い。間に合わないのは目に見えていた。
「一緒にいるなんて、そんな罰当たりな事…出来ないよ。淘汰されなきゃ。こんなケガだらけの生き物、野生では生きていけない」
「でも…」
渋るエルに、アイはキッと睨みつけた。
「私の体の中には、爆破装置があるの! 早くしなきゃ、お姉ちゃんごと爆発しちゃう! だからダメなの!」
それを聞いて、エルは悲しそうな顔をした。彼女は知っていた。アイの体に、そもそも機械が何も無い事を。
「いけない子…最後の最後まで、お姉ちゃんの足を引っ張って…」
エルは彼女を抱きしめた。
「でも…世界一優しい子」
最後の時間を惜しむように、エルは彼女を離そうとしなかった。
「私の最期…受け取ってくれる?」
アイが首を縦に振るのは、しばらく後だった。


「本当に良いのね?」
壁に寄りかかるアイに、エルは尋ねた。その体は、真っ赤な血の海に浸かっていた。エルの拳には、強烈な電流が流れている。
「弱い生き物は強い生き物に支配される…私達らしい最期だよ」
アイは電撃刑を選んだ。愛する姉の手にかけられるため。
「…最期に何か言い残したい事はある?」
精一杯の笑顔で尋ねるエルに、自然な笑顔で、彼女は答えた。
「お姉ちゃん…私のお姉ちゃんでいてくれて、ありがとう…」


たった数秒の放電が2人の、永遠の別れになった。

 戻る