「…見えてるよ、中身が」
対してアイの反応はとても冷たかった。無理も無い。まるで『狙ってくれ』と言わんばかりに、様々な電子部品が見えているのだから。チャンスとばかりに、アイは特攻を仕掛けてきた。
「苦しまないように、すぐ終わらせてあげるからね。お姉ち…」


アイの言葉は、そこで止まった。視界に捉えていたはずのエルミナスは一瞬で、彼女の目の前から消えたのだ。
「え?!」
野性の勘が、彼女に防御をさせていた。急上昇の体勢を取り、既に金属粉はあたりに撒き散らしていた。
「もう遅いわよ!」
その瞬間、アイのお腹に強烈な衝撃が入った。エルミナスの拳だ。高速移動のまま繰り出したストレートの力に負け、アイは背後のビルの壁に叩きつけられた。ビルをも揺らす衝撃に、耳障りな轟音。受身を取る余裕など無い。
「うっ…!」
息つく暇も無く、エルミナスは間合いを一気に詰めた。それは追い討ちというよりも、アイを逃がさないためだった。しかし、小柄な体格の彼女に、そんな力は残っていない。一瞬が全てを決定付けた瞬間だ。


「うぅ…」
力なくへたり込むアイ。額からは赤い筋が、彼女の頬を伝っている。あの衝撃では、何本か骨折もしているだろう。まるで後光のように壁に飛び散った鮮血が、エルミナスの凄まじさを語っていた。
「お姉…ちゃ…ん」
無表情のまま、彼女はエルミナスを見つめた。その目は確実に『私を殺して』と訴えている。エルミナスはじりじりと詰め寄った。
「っ!」
アイは思わず目を閉じた。


エルミナスはゆっくり、アイへと寄り添い、抱きしめた。何が起こったのか分からずにいる彼女に、姉は一言呟いた。
「寂しかったのね…?」
2人にとって、それで十分だった。残された力を振り絞り、アイは強く抱き返した。街に響き続ける泣き声が、彼女の辛い人生の全てを教えてくれた。


今、悲しい戦場の中心には、2人の姉妹がいるだけだ。

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