「うおぉ! もうそこまで来ているじゃねーか!」
全速力で走ってはいるが、エルミナスの姿は、チータの背後20メートルにまで迫っていた。
「必殺! トルニオン・レイン!!」
彼女の掌から、電流が小さな塊となって、あられのように発射される。
「それに触れたら、神経がバカになるんだってな! 知ってるぜ!」
威力は無いが、体の奥にまで浸透し、細胞に直接作用する。その痺れが取れないうちは、思うように体を動かせなくなる。それがこの技の、真の恐怖だ。
しかし、どんなに怖かろうと、理屈さえ分かれば何とかなるものだ。この技だって、要するに当たらなければ良いのだから。チータは全力で走ると同時に、電気の粒を避けていく。
「しかし、これは…ぜぇはぁ…きついぜ…!」
何せ、後ろを向きながら走っているのだ。体力を消耗するのは当たり前であろう。彼は大声を出した。
「これ以上は無理だ…応援頼むぅ!」


「了解」
呟くような応答の後、2人の間にアイが飛来してきた。そして足の爪で握ったバスケットから、まるで桜吹雪のように、銀色の粉を撒いていったのだ。
「しまった!」
チータに直撃する前に、電気の粒は金属粉に命中、そのまま地面へ流れてしまった。
「その翼の音…アイでしょ?!」
「…そうだよ、お姉ちゃん」
足を止めるエルミナスを確認した後、アイは地上へ降りてきた。
「自分が何をしているのか、分からない訳じゃ無いでしょ?」
「うん」
「どうしてこんな事をするの! 人を傷つけて何になるの! あなたも言っていたじゃない! 私達がするべき事は、町の皆に手を差し伸べる事だって!」
「それじゃ、その街の皆が、私に手を差し伸べてくれた事があるの?!」
彼女の翼が、ばさりと開かれる。その鋭い目はまさに、ハヤブサそのものだった。
「この仕事が成功したら、お金が入るの…あの日、私達が脱走してから、初めてのお給料になるんだよ」
「それまで…一文無しだったの?」
「こんな体で! どこの誰が雇ってくれるって言うの!?」
街に響く悲痛な叫び。彼女の目からは1筋の涙が流れていた。
「私、お姉ちゃんみたいに器用じゃ無いから…ゴメンね?」


その言葉と同時に、彼女は低空飛行で襲ってきた。問答無用の戦闘開始だ。
「出来ればあなたとは、戦いたく無かったのに…!」
エルの人生で一番辛い戦いが始まってしまった。

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