ここは街の繁華街。度重なるキメラ達の攻撃で、いたるところに破壊の跡が残っている。しかし、それにめげることなく、街の人達は生活をしていた。
「このたくましさが、街の復興へつながるのね」
そこに白杖をついた、エルがいた。前章でも言った通り、敵が来ない間、彼らは無職扱いなのだ。あまりに暇な時は、所長の許可さえあれば、自由に街へ遊びに出掛けられるシステムになっている。その上、所長つまりニコは、エルに対しては態度が甘いため、彼女は事実上いつでも外へ出られる立場にいる。
とはいえ、彼女は遊び続けるような性格では無い。それは誰もが知っている事だ。
「どこか落ちつけるところに座って、本でも読もうかな」
そんな事を考えながら、はや2時間。久し振りの外出に、彼女の足は止まらなかった。


「いた」
エルから何百メートルも離れた場所に建つビルの屋上に、2人の人間がいた。
「どこ?」
「あそこ」
「遠すぎて見えません」
「赤いリボンをつけて、水色のワンピースを着た、白い杖をついた女の子」
「いや、見えないんですって」
いくらチータが目を凝らしても、そこに見えるのはただの点だ。
「流石はハヤブサの目。よく見えるなぁ」
感心する彼をよそに、アイは静かに口を開いた。
「こっちには気付いていないみたい…行きましょう」
「お供させていただきますよ、先輩?」
そう言うなり彼は、ビルの屋上から小さく跳躍、そのまま壁を駆けるように落下した。
「…気の早い人」
アイは呟いた。
「でも、その方が良い…私、体力無いから」


彼女の背中が、もぞもぞと動く。不自然に盛り上がったかと思った時には、彼女の体程もある大きな翼が現われた。
「ゴメンなさい、お姉ちゃん…私、裏切るから」
風を切り裂くように、彼女は飛び立った。

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