エルミナスと対峙しながら、ライノは作戦会議での話を思い出していた。それは、マナギ博士が考えた作戦であった。
「大丈夫だ。打たれ強さなら組織一だ」
自分に言い聞かせながら、彼は突進を始めた。
「ライノスボム!」
助走をつけてのショルダータックルに、エルミナスは少しだけ戸惑った。
「え、タックル?」
「避けないならあてるまで!」
そうは言うものの、彼の足はあまり速くなかった。体の重さが原因だろうか、一般人にも劣っている。彼女の相手にしては少し役不足だった。
「あててごらんなさい?」
彼女はまるでスペインのマタドールのように、激突寸前のところをひらりと避けた。
「今度はどんな人が来るかと思ったら…ただの力任せな人じゃない。がっかりしちゃった」
「敵にがっかりされるとは思わなかった」
「私は正義、あなたが敵よ」
急転回するために体勢を整えようとした瞬間、ライノはいくつも拳を浴びた。無防備になる瞬間を狙って、エルミナスが殴りかかってきたのだ。
「せ、正義の味方のくせに卑怯だぞ!」
「卑怯ですって? ビル1棟潰した人が、何を言っているの!」
今度は彼の真正面から、何発もストレートを叩き込むエルミナス。彼女が使うものはいつも己の拳のみである。どうやら武器を持たない主義のようだ。
しかし、彼女の攻撃も、ライノにはあまり効果が無いようだ。いくら殴っても、まるで何事も無かったかのように、何度でも起き上がってくる。強化服越しでありながら、彼女の拳に痛みが残り始めた。
「それにしても、凄く硬い皮膚をしているわね」
「カニの遺伝子も少しだけ入っているからな。タフさでは私が一番だ」
「昨日の人もカニだったわ」
「カニがブームだった…それだけだ」
事実、彼らが誕生する直前、モノポリアは北海道へ慰安旅行に出掛けていた。そこでカニの美味さに感動し、カニ人間が考案されたのだ。
「さらに…私はカラスの遺伝子も組み込まれている!」


エルミナスの背中に、いくつもの激痛が走った。
「これは…羽?」
「何を驚いている? 羽を飛ばしての攻撃はお約束だろう?」
ライノは再び突進の体勢に入った。
「遠近両方から、お前を倒す! ただそれだけだ!」
「相変わらず、卑怯な人達ね…」
背中に刺さった羽を抜きながら、エルミナスは吐き捨てるように言った。
「遠慮無く来なさい! 次の一撃で終わらせてあげるわ!」

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