ニコ魔術研究所に、キメラが現われた事を知らせるサイレンが鳴り響く。
「博士、キメラが街に現われまし…どうしたんですか?」
ずるずると助手を引っ張るニコの姿に、エルは言葉を失った。
「負傷者よ。でも大丈夫。首にネギを巻けば治るわ」
「その対処法は何か違う気が…とにかく急ぎましょう」
結局、2人がアルにした最大の処置は、ソファに放り投げる事だった。


「コンクリートを砕ききる!」
街ではあのゴツゴツした肌の男が、ビルに突進を繰り返していた。衝突のたびにビルはぐらぐらと揺れている。
「私はライノ。サイの遺伝子を受け継ぎしキメラ。その怪力、とくとご覧あれ!」
彼は深く息を吸うと、足を踏ん張り、強烈な頭突きをビルにぶつけた。今までで一番激しい音と共に、ビルの壁や柱に無数の亀裂が走った。
「1階の柱の鉄筋は全て、破壊しました。後は軽い衝撃だけで…」
サイには似つかわしくない美しい回し蹴りで、ビルはとうとう崩壊を始めた。コンクリートの塊を周囲に撒き散らしながら、ものの数分で、30階建てのビルは平屋になってしまった。
『このままあの男もいなくなれば…』
そう願う人々の思いを消し去るように、もうもうと舞い上がる土ぼこりから、ライノは姿を現した。
「はっはっは! さぁ…次は誰が砕ききられたい?」


「私にお願いできるかしら?」
崩れ去ったビルの山の頂上に、天使は立っていた。風になびくロングヘアーが、今日もまた美しい。
「そんなところから登場とは、思いも寄らなかった」
「私も、登場用のビルが壊されるなんて、思いも寄らなかったわ」
そう言うと彼女は、強化服によって増強した跳躍で、ライノとの間合いを一気に詰めた。
今の彼女はもう、普段のエルでは無い。強化服に身を包んだ、正義のヒロインなのだ。
「雷鳴の申し子、エルミナス参上!!」

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