今や悪の組織は、社会の地位や近所付き合いが無ければ成功しない。昔かたぎの悪人は皆、口を揃えてこう言う。
『世知辛い世の中になったものだ。あの頃は良かった。ただ暴れるだけで十分だったから』
その風習は、ここ有限会社もとい悪の組織『モノポリア』でも、当たり前のようになっていた。
「博士、回覧板終わりましたよ」
「あ、おかえりなさい」
「あれ? 博士は?」
部屋のリビングでは、同僚である別の怪人が、テレビゲームに夢中だった。
「下の研究室でお説教くらってます」
「ボスも博士も暇人だな。そんな事してる間に、怪人の1人でも育てた方が効率的だろ」
「先輩の仰る通りですよ」
「ならお前は何をしているんだ?」
後輩怪人はテレビ画面を指差した。
「野球ゲームです」
「そういう意味じゃねぇ!」


「くそ、あの石頭め!」
「またこってり搾られたんですか?」
「ボスは理想主義だから困る。負ける事は同時に新しいデータ採取である事を、よく理解して貰いたいものだ」
「無理っすよ。ボス、文系だから」
「文学部出身が何故、悪の組織の首領をするのか…これだから封建制度は嫌いだ」
理想を要求する上層部と、現実にぶつかる下層部の間に立つ男…それがこの博士・マナギだった。いわゆる中間管理職である。
「今日も怪人作りと育成をする。手伝ってくれ」
「アイアイサー」
「本当に悪いな。お前も怪人だというのに」
「なぁに、大先輩の1人でもいた方が、空気が引き締まるってもんですよ」
胸をどんと叩き、役立ちっぷりをアピールする怪人。事実、まともな研究者が1人しかいないこのアパートで、彼はとても役に立っている。先日、怪人キャンサが殉職した際、仏壇のセッティングをしたのは彼なのだ。
「それじゃ、今日も作戦会議を始めますか」


「ところで、お前の名前は何だっけ?」
「自分で名付けて、何で忘れるんですか?! レイトルですよ!」
「すまない、すっかり忘れていた。それで、何の怪人だっけ?」
「扱いが酷すぎる!」

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