怪物騒ぎの起こった繁華街から少し離れた場所に、1棟のボロアパートが建っている。塀には『有限会社モノポリア』と書かれた看板が掲げられている。
「シクシク……またダメでしたね」
「当たり前だ。私達の話も聞かずに、突然飛び出して、全く……くうぅ!」
2人の男が涙を拭いながら、即席の仏壇にお供え物を並べていた。その遺影にはあの、騒ぎを起こしたキャンサの写真が収められていた。静かにお祈りをする男とは打って変わって、もう1人の白衣を着た男は感情的だった。
「私達が集めたデータを、先人達が身を挺して集めたデータを、何だと思っていたんだ!」
「博士、あいつの冥福を祈りましょう」
「お前達を死なせたくないから、私達は必死で頑張っているというのに!」
「博士」
「分かった、分かったから、服の裾を引っ張るな」
2人は仏前で正座になると、両手を合わせて合掌した。


「愚か者!!」
別室の巨大モニターには、黒い人の影が映っていた。葬式の終了後『博士』と呼ばれていた男はその前に立ち、さっきから罵声ばかりを浴びていた。
「あの小娘が現れてからというもの、我々の計画はことごとく失敗に終わっている! その状況を忘れたとは言わさんぞ?!」
「はい、それはもう、重々承知しております」
「何が『重々承知』だ! 金を出しても失敗ばかり、そのくせ新しい実験の繰り返し、その上敗残者の葬式ときた! 何も分かっていないではないか!」
「しかし、部下の葬式は、組織設立当時からの伝統で――」
「うるさい! そういう口答えは、成果を挙げてからにしろ!」
モニターの向こうにいる男は、どうやら博士よりも偉い立場の人間らしかった。彼は必死に頭を下げるばかりだ。怒りつかれてきたのか、モニターの男はため息をついた。
「我々は元々、少数精鋭で運営してきた。お前はその精鋭達の、最後の生き残りだぞ? その自覚をしっかり持て」
「重々承知しております」
「次もエルミナス討伐計画でいく。今度こそは成功させ、我らが『モノポリア』に勝利をもたらすのだぞ?」
「分かりました、ボス」


「ところで……私の有給休暇ですが、今月の20日で良ろしいでしょうか?」
「あぁ、その日は問題無い」
「ありがとうございます」
悪の組織『モノポリア』の福利厚生は案外充実していた。

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