「ちっ! 話に聞いていた通り、自信過剰な奴だ!」
頭の痛みに耐えながらハサミ男は、自慢の腕をちょきちょき動かした。
「ハサミ男なんて呼ぶなよ。俺様には『キャンサ』という、立派な名前があるんだからな!」
「自己紹介はいらないわ。どうせ私が退治しちゃうんだから」
「だから自信過剰なんだよ、お前は!」
叫ぶやいなや、男は一気にエルミナスの真上へジャンプした。その両腕はまっすぐに、彼女の首を狙っていた。短期決戦に打って出たのは明白である。突然のピンチに、当の本人が口にした言葉は――。
「あなた……この世界へ出てきたばかりの新人ね?」
彼女の小さな跳躍は、男の毒牙から逃れるのに十分だった。空振りに終わった男のハサミは、空を切り、そのまま地面のコンクリートをも切り裂いた。
「あぁ、そうだよ! 俺はついさっき誕生した! それが何だって言うんだよ?!」
「チッチッチ……まだまだね、ワトソン君?」
そう言って人差し指を振る彼女の挑発に、男はカッとなった。
「うるせぇ! お前なんか、不意打ちしてきたり、逃げ回ったりしているだけじゃねぇか! そんな奴に、能書き垂れる筋合いなんざ――!」

どんなに屈強な男が相手でも、たったの一撃で倒す方法がある。それは、人間の体に存在する急所を狙う事だ。この男も同様である。たとえ手がハサミだとしても、彼の体は人間そのものなのだから。
「っ……!」
エルミナスが指を突き立てた部分……それはみぞおちだ。
「『水月』っていう名前の急所よ。ちゃんと覚えなさい、テストに出るから」
その体勢のまま、彼女は深呼吸をする。その瞬間男は、世界の時の流れがゆっくりになったように感じていた。これからやって来る絶望を、少しでも拒むかのように。
「ただ、もう二度とテストは受けられないわ」
その言葉が出てくると同時に、彼女の体から激しい火花が散り始めた。バチバチと音を立てるその姿は、まるで小さな花火である。
「必殺! トルニオン・ドライブ!!」
右腕からバリバリと電流を放ちながら、その拳は男の左胸に打ち込んだ。そこから大きな爆発音を立てながら、男の体は遥か向こう、ビルの壁へと叩きつけられた。
「この体に神の雷が宿る限り……私は戦うのをやめない!」

ちなみに、敵が爆発をあげてやられるのは、いわゆる『お約束』である。

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