その日、街はとても穏やかだった。たびかさなるキメラの襲撃に負けず、彼らは精一杯今日と言う日を楽しんでいた。
特に今日は、街が以前から計画していたあるイベントが、朝から開催されていた。その名も『花祭り』。崩れ落ちたビルの隙間から咲く花に感動した市長が、最も力をこめたお祭りだ。想像通り、様々に咲き誇る花を見て、和んでもらおうという内容だ。


「ん〜…着眼点は良いけれど、なんだか華が無いんだよなぁ」
ふとそこへ、とある少年が現われた。長い髪を後ろで結い、手に皮の手袋をしているのが特徴的だ。彼は花壇のそばまで歩いてきた。
「これだけ種類があるのに、どうしてあの花が無いのかな?」
そう呟きながら彼は、手にした手袋を取り去った。


「きゃあ!」
どこからか、叫び声が聞こえてきた。少年の手を見たのだろう。それは人間のものとは違う、緑色の肌をしていた。
「よっと」
軽い掛け声と共に、彼の指先から細長い植物のツルが、ビュルビュルと伸び始めた。それを、まるで空き缶を投げ捨てるかのような手間で、彼は地面に突き刺していく。
人々は目を疑った。自分たちはビデオの早送りを見ているのだろうか。猛スピードで植物たちが枯れたかと思えば、突如地面から謎の植物が生え始めたのだ。緑色の葉っぱはぐんぐん伸び、2メートルにも達した。その先からは黄色い、お世辞にもあまりきれいとはいえない花が咲いている。
「やっぱりこれが無くちゃぁね!」
突如現われたキメラに、人々は大騒ぎして逃げ始めた。


「エル! 街にキメラが現われたわ!」
研究所にサイレンが鳴り響いたのは、まさにその瞬間だった。
「白昼堂々と出てくるなんて、余裕だと思わない?」
「敵の危険度は、どれくらいですか?」
「分からないわ。ただ、いつもと少し雰囲気が違うみたい。どのモニターにも、人を襲う様子が見られないわね」
まさか、エルは不安にかられる。
「『トライデント計画』…!」
「私には分からないわ…エル、あなたが自分で確かめなさい」
「そうするつもりよ!」
迷いは見られなかった。いつもと違う敵を目指して、エルは大きく跳躍した。

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