16日(木) 暑い。 この夏は猛暑になる、という言葉は毎年聞くが、今年は大正解だと思う。 相変わらずフォルトゥナは、ノンベンダラリと暮らしている。 ガキの様な口の悪さとしつこさは、今も健在だ。 食費がかさむ点も見逃せない。 ただ、昔に比べて、俺と対立する事が少なくなってきた。 今はもっぱら、俺を納得させようとしてくる。 つまり、腕を絡ませる、猫撫で声を上げる、上目遣いをする、という事だ。 フォルトゥナはフォルトゥナなりに、俺の扱い方を覚えたのだろうか? 勿論俺は、騙される事はない。 ……確かに今日は、少しばかりお小遣いをやったけどさ。 17日(金) フォルトゥナはユイちゃんの家へ遊びに出掛けている。 だから今日はゆっくり、姉さんとメールをした。 買い物の帰りにフォルトゥナが、俺の住んでいるアパートから出てくるのを見かけた。 しかしそこは、俺の家ではない。 そういえばユイちゃんは、このアパートの管理人だったんだ。 あの部屋に住んでいるのか、知らなかったな。 18日(土) 思い切って自転車で遠出してみた。 外はクソ暑いけど、家にいるよりは暇潰しになるだろうと思ったからだ。 なるべく日陰に入りながら進んだが、猛暑の名は伊達じゃなかった。 水筒がなければ俺は今頃、それこそミイラみたいに干からびていただろう。 そんなこんなで、今日はもう疲れた。 寝る。 19日(日) 姉さんとメールしていると、いつも言われる事がある。 ちゃんと野菜も食べるのよ、だ。 姉さん、安心して欲しい。 うちでは毎日、もやしが出てくるんだ。 とにかく安く、歯応えがあって、腹持ちが良い。 流石は貧乏学生の味方だ。 栄養面には不安が残るが。 今夜ももやしが出てきた。 俺は生のままバリバリ食べられるが、フォルトゥナは既に飽きている。 せめて美味しくなるようにと、日夜研究を繰り返しながら、もやし料理のレパートリーを増やしていった。 今ではその数30種類。 あいつの料理のセンスは、本当に凄い。 20日(月) 今日もフォルトゥナは遊びに出掛けた。 勿論行き先はユイちゃんのところだ。 ……女の子と仲が良いのは羨ましいなぁ、と考えた時だったと思う。 フォルトゥナが慌てて、俺を家から引きずり出したのは。 何でも、ユイちゃんの夏休みの宿題が、終わりそうにないらしい。 お勉強の出来ないフォルトゥナは、そこで俺を利用しようと思いついた、という訳だ。 見てみると、彼女のペースは遅くなかった。 しかし高校生ともなると、その量は半端無い。 ちょっと泣きそうな顔をしていて、それが俺の心に突き刺さる。 他ならぬ彼女のためだ、喜んでフォルトゥナに利用されてやろう。 休みボケの頭を、シャンとさせる必要もあるしな。 21日(火) 今日は、朝からユイちゃんを手伝った。 まだ10日もあるから、修羅場だけは避けられそうだ。 まずは、彼女の苦手な数学を中心に進めていこう。 他はまた追々で。 ……何だか俺、まるで家庭教師みたいだな。 22日(水) 今日は数学ばかり勉強した。 苦手だって言ってたのに、よくあれだけ頑張れたものだなぁ。 お陰で数学は、明日で終わっちゃいそうだ。 ユイちゃんは、やれば出来る子だな。 ところで、いくら身分を隠すためとはいえ、フォルトゥナにお兄ちゃんと呼ばれると、ちょっと不思議な気分になる。 23日(木) 最後だけちょっと躓いたけど、これで数学は終わった。 後はもう単純作業の繰り返しだ。 前からコツコツしてきたとは言うが、これはとても凄い記録になるだろう。 頑張ったご褒美に頭を撫でてあげた。 まさか、それが喜ばれるとは思わなかったが。 ところで、いくら兄妹といっても、フォルトゥナだけ横文字ってまずくないか? 今更だけど。 24日(金) 宿題は受験勉強と違うから、トンカツばかり作らなくて良い。 そうフォルトゥナに言った方が良いのだろうか? 25日(土) 読書感想文も終わった今日、俺はユイちゃんからの色んな話を聞いた。 ゴールが見えてきたからか彼女は、すんなり応じてくれたのだ。 彼女が一人っ子な事、まだ高校1年生な事、フォルトゥナとの出会い……。 晩飯はまたトンカツだ。 26日(日) 面倒臭い宿題を終わらせてしまおうと、2人で決めた。 それは、英単語や漢字の書き取りのような、根性ばかりいる宿題の事だ。 1日がかりでやれば、何とかなりそうと判断したからである。 そして、それをやりきってしまうユイちゃんが、本当に凄い。 彼女は将来、大物になるかも知れないな。 少し暇になった俺は、フォルトゥナに英語を教えてみた。 こっちはあと25年掛かりそうだ。 27日(月) 必死の交渉の末、ユイちゃんの読書感想文を読ませてもらった。 今まで読んできた本の中でも、断トツで面白い。 俺は、とても大切な事を学んだ。 本の一文だけ使い、そこから自分の話ばかり書いても、読書感想文が成り立つ事を。 28日(火) ユイちゃんの宿題を手伝い始めて、これで1週間だ。 明日か明後日には終わるだろう。 俺もフォルトゥナも、1日の半分以上を、ここで暮らすようになっている。 食事はフォルトゥナの仕事だ。 それをユイちゃんは毎日、美味しい、と連呼していたっけ。 俺が食堂通いをやめたのも、フォルトゥナのお陰だな。 いつかお礼をしなければ。 29日(水) 今日はいつになく暇だ。 教える事も特に無いから、メールばかりしていた。 姉さんは、お気に入りのアーティストのアルバムを買えたようだ。 今度、貸してもらう約束をした。 俺はようやく、近所の学生の宿題を頑張っていた事を打ち明けた。 忙しさのあまり、言うのをすっかり忘れていたのだ。 彼女は、タダで手伝うなんて偉いね、と褒めてくれた。 宿題は明日終わりそうだ。 晩飯は、ようやくエビフライに変わった。 30日(木) 遂にユイちゃんの宿題が終わった。 本当によく頑張ったなぁ。 その記念に今日は3人でパーティをした。 冷蔵庫の整理が出来るからと、フォルトゥナはたくさん料理を作った。 2人の必死の説得により、揚げ物料理はどこにもない。 これ以上油っぽいものは食べられないからな。 そんなフォルトゥナに俺達は、小さいながらケーキをプレゼントした。 料理を用意してくれたお礼に、2人で打ち合わせをしていたものだ。 このサプライズにはフォルトゥナも、少し泣いてたっけ。 とても楽しい1日だった。 31日(金) 気付いたら夕方だった。 宿題が終わってホッとしたからだろう。 家に帰った後、死んだように寝ていたらしい。 朝飯代わりの晩飯を食べて、今日はもう寝よう。 |