1日(水)
ベランダのプランターに新しい仲間が加わった。


今度はミニトマトだ。
いつかの夕飯に出たやつを、種だけ取り出して埋めていたらしい。
器用な奴だ。


また食べさせてくれないんだろうな。
2日(木)
珍しい事に、フォルトゥナが俺を頼ってきた。
何でもプランターの植物が上手く育たないらしい。
今にも泣きそうな顔が、何だか大人っぽくて、不覚にもドキリとした。


俺はずぶの素人だが、その原因が分かった気がする。
多分、夏の日差しが強すぎるのだろう。
昼からプランターを日陰に移すよう指示しておいた。


プランターの傍で蹲り、心配そうにするフォルトゥナ。
俺は冗談で、彼女の頭を撫でてみる。
彼女は何も言わなかった。


今日のフォルトゥナは妙に色っぽい。
普段もあんな感じだったら、俺だって手荒い真似はしないのに。
ドキドキしっぱなしの1日だった。
3日(金)
せっかくの夏休みなので、チゲらをカラオケへ誘ってみる事に。
でも電話を掛けたら、半ギレで断られた。


どうやら彼女と一緒だったらしい。
例の彼女とは良い関係のようだ。
チゲ……羨ましい奴め。


フォルトゥナに愚痴ってみたが、実力不足ね、と鼻で笑われた。
悔しいのに反論出来ない自分が情け無い。
4日(土)
フォルトゥナはユイちゃんと遊びに、朝から出掛けてしまった。
これで俺も1日、静かに暮らせるってもんだ。


最近は姉さんとメールをする事が多くなった。
姉さんは帰省組から、これしか連絡手段が無いのだ。
あれだけしても電話代より安いのだから、有難い事だよな。


夜、あのフォルトゥナから遊びに誘われた。
ここに済ませて貰っているお礼に、ユイちゃんと仲良くなっても良いわよ、だってさ。
どうせ自分もついてくるつもりだろうに。


理由はどうあれ、ユイちゃんと遊べるのは有難い。
ここは1つ「大人の魅力」ってものを見せなくちゃな。
5日(日)
ユイちゃんと2人(とおまけ)で町へ遊びに出掛けた。
控えめな笑顔が何とも可愛い。


それにしても、今日は心底驚いた。
まさかあの清純で大人しそうなユイちゃんが、俺に会いたかった、なんて言うとは!


つい調子に乗って色んな物を買ってあげてしまった。
何故かうちの神様にまで。
2人掛かりでねだるのは反則だろ。


お金はピンチになったが、2人分の笑顔に癒されたような気がする。
6日(月)
今日もフォルトゥナを観察していて、気がついた。
ここ最近の彼女の様子がおかしいのだ。


ふと気付けば彼女は、こちらの顔をジッと見ている。
そして俺と目が合うと、急いで顔を隠す。
その繰り返し。


俺をからかってるのだろうか。
欲しい物でもあるのだろうか。
俺を観察し始めたのだろうか。


謎は深まるばかりだ。
7日(火)
フォルトゥナが図書館から本を借りてきた。
ユイちゃんにカードを貸してもらったのだろう。


何を読むかと思ったら、酷く古い本で、タイトルすら読めない。
歴史で言うと、平安時代くらいだろうか。


今、この現代に似合わない本を、彼女は静かに読んでいる。
まさかあいつは、本当に神様なのだろうか。
未だに確信出来ない。
8日(水)
今日も俺は静かに、姉さんとメールをして過ごした。
読書中のフォルトゥナは、まさに本の虫だ。


どれくらいかといえば、少し位なら俺が背中を蹴っても気付かない程である。
そんな時の彼女は、お腹が空いている事にさえ気付かないのだ。


今日は、2人分の昼食代が浮いた。
9日(木)
フォルトゥナは朝から本ばかり読んでいる。
今日も食費が浮いた。


それにしても、この集中力は凄い。
雑誌を読んでいる時は、あれだけお子様なのにな。
この力が他でも発揮されりゃ良いのに。


ページ的に、そろそろ1冊読み終える頃だ。
感想は明日にでも聞こう。
10日(金)
昼過ぎ、遂にフォルトゥナは本を読み終えた。
俺が言うまでもなく、彼女は本について語り始める。
しかし、聞き慣れない単語だらけで、さっぱり分からない。


確かめようにも、漢字ばかりで読めやしない。
……いや、これは平仮名か?
それすらも分からない。


夕方になれば、すっかり彼女は元通りに戻っていた。
謎の多い神様だな。
11日(土)
居残り下宿組と自宅組をかき集め、カラオケに入り浸る。
普段静かなあいつが、まさかあんな最新曲を絶叫するとは……。


ハンドルを握ると性格が変わる――
そんな人がいるらしいが、それと似たようなものか?
12日(日)
我が家の家庭菜園に活気が戻ってきた。
今では青々とした葉が、一面に広がっている。


あの1件以来、フォルトゥナは俺を頼るようになった気がする。
以前はあんなにツンツンしていたのに。
これでようやく、このお騒がせな同居人と仲良くなれたのかも知れない。


しかし、水やりまで頼られるのは、如何なものか。
13日(月)
平年を大きく上回る気温が、この家をも直撃した。


昼間はクーラーの風量を少し強くすれば、暑さを凌げる。
しかし、本当の問題は夜だった。
昨夜は熱帯夜だったのだ。


特に酷かったのは押入れである。
元々クーラーの風が入りにくい場所だから、サウナのようになっていた。
流石の俺達も、これには意見が一致したものだ。


仕方が無く、俺達は同じ布団で寝る事に。
よく考えると、初めての添い寝だった。
……ちょっとドキドキして眠れなかったのは、俺だけの秘密である。
14日(火)
省エネを実行してみた。
ここは家電は少ない方だが、やはり支出は抑えておきたい。


2人で家中のコンセントを抜いて回った時の爽快感ときたら、もう、もう!
15日(水)
冷蔵庫のコンセントまで抜いたのは誰だ?


……フォルトゥナじゃなくて俺だ!


気を落とす俺を慰めてくれたのは、ひょろりとした人参だった。
あの個性的にケチなフォルトゥナが、俺に恵んでくれたのだ。


一緒に食べよ、と言われた時は俺、泣いちゃったよ。
今日の俺はちょっとガキっぽかったな。

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